桜井:
 では、次に「モンキーラップ」*にいきますか。

 モンキーラップ
 monkeyrap.wav(876KB)

安藤:

 モンキーラップねえ。

酒井:
 先に話していい? モンキーラップ収録の1日目に、僕は会社で普通に仕事をしていたんですが、スタジオにいる安藤さんから電話が入って、*「酒井さ〜ん、PCが動かないんですぅ〜」って(笑)。

安藤:
 そのときは結局、オーディオを単なるテープのように再生して、それにあわせてラップを歌ってもらうという方法で、なんとかなったんですけど。

池上:
 モンキーラップは、ナマでは絶対に歌えないでしょう? 
 あの早口は。

酒井:
 原曲はゆっくりしたものだけど、それを早いテンポにアレンジしたんですよね。

安藤:
 そうです。
 「ドンキーコング64」のモンキーラップは、一定のテンポで、わりとゆっくりしたものだったんです。
 でもスマブラDXでは、あの曲をキャラクターによって*少し急がせたり、逆にのんびりさせたりする必要があったんです。
 だから、色々と編曲するうえで、「この小節内には、この歌詞を収めなければいけない」という、窮屈なところがあったりしたので、ちょっと難しかったんです。
 それで、スタジオでDJの人にも練習してもらいつつ収録して、うまくいった部分をつなげて作っているんですよ。

池上:
 基本的には、あのテンポで歌っているんですか?

酒井:
 いや、違います。
 テープスピードを遅めにして収録しています。
 だから、ちょっと声が高くなっている部分もあります。*

安藤:
 そういう部分もある。
 でも、高い部分は高いなりに味があっていいと思うけど。

桜井:
 まあ、破綻していないし「ほんのり」っていうくらいかなあ、と。
 そんなに激しくテンポは変わっていないし。

安藤:
 練習するのも大変だったんじゃないかなあ。

池上:
 でも、収録してきたものをそのまま聞かせてもらったんだけど、「スゴイなあ」っていうのが第一印象で。
 早口言葉みたいで。
 まあ、英語だからそう感じるのかもしれないけれど、でも、とにかく「スゴイなあ」と思ったね。

安藤:
 うん、普通に歌ってもかなり早いからね。

池上:
 それじゃあ、相当細かく切ったり、相当テープスピードを遅くして収録したりしているのかなあ。

安藤:
 そんなに極端なことはしていないけれど。

酒井:
 「ほんのり」ね。

安藤:
 歌い手がすごく優秀だったので。*

桜井:
 それにしてもデカかったなあ。

酒井:
 体も声も(笑)。


桜井:
 粉ミルクをコーヒーにドバドバ入れていて、普通のコーヒーがエスプレッソみたいになっていて、印象的だった。

池上:
 僕はあの頃は効果音の量産時期だったので、収録に行けなかったんですよね。残念だなあ。
 「ミュートシティ」のギターの収録のときもそうだったんですけどね。

桜井:
 ああ、そうか。
 そちらはどうだったんですか?

酒井:
 元データイーストの「MARO」っていうギタリストが演奏したんです。
 「ゲーマデリック」*の。

桜井:
 「ゲーマデリック」とは、また懐かしい。

酒井:
 彼とは昔からツーカーの仲なんです。
 それで、収録の最初は機械トラブルで時間をとられてしまったんですけれども、結局1時間ぐらいで収録することができたんですよ。

池上:
 安藤さんから収録の様子を聞いたんです。
 「すごくいいセッションだった」って。
 だから、見たかったんですよねえ。

酒井:
 あのときに、ドラムを叩いていたのが、クリーチャーズの橘田くんという人なんですけれども、その演奏する姿を見ていた安藤さんが、「うーん、やっぱり楽器ができるのは、イイですねえ、僕もなにか楽器をやろうかなあ」って(笑)。

池上:
 楽器といえば、「オネット」の曲のメロディをサックスでやるっていう話しもあったんですけど、結局それは出来ずに終わってしまったんですよ。
 私もサックスプレイヤーとして、参加できたはずなのに・・・ スゴイ心残りなんですよ。

安藤:
 みんながそれぞれ楽器を練習して・・・

池上:
 ハル研バンドでもやりますか?

酒井:
 ところで、モンキーラップの収録って、何日間やったんでしたっけ。

安藤:
 2日間ですね。

池上:
 2日間でミックスまで終わっちゃったんですか?

酒井:
 
うん、そう。
1日目にバックトラックというか、オケを収録して、夜に声を収録する予定だったんですけれども、シンクロのトラブルがあったので、1日目は声の収録だけになっちゃったんです。
 そのかわり、安藤さんが収録した声を山梨に持ち帰って、ピッタリ合うようにロジックオーディオで調整して、最後はそれを全部流し込んでミックスして完成したんです。

桜井:
 話題は変わりますが・・・。
 ドクターマリオをキャラクターとして選んだ理由のひとつとして、ドクターマリオの曲を使いたいということがあったんです。

酒井:
 ドクターマリオの曲は、クリーチャーズの社長の田中宏和さん*が作ったものなんですね。
 それで、僕と田中さんの職場が同じビル*ということもあったので、僕がアレンジした曲を直接監修してもらったんです。
 田中さんを僕のサウンドブースにお呼びして曲を聞いてもらったんですが、そのときに田中さんからは、「これ、全部リズムボックスでやったらええんちゃう?」ということも言われたんですが、僕も「いや、これはフィフティーズ的な感じを入れたかったので」といったやりとりをして、田中さんも僕のやろうとしていることを理解してくれたんです。
 そのあとに田中さんが、「なんでこれに色々な要素の曲が入っているかというとな、ドクターマリオっていうゲームは、対戦していると辛くなったり楽になったりとか、色々な状況になるやん。だから、そういう要素の部分が実際にその状況にハマるかどうかはわからないけれども、こういう曲をつくりたかったんや」っていうようなことをおっしゃったんです。
 それで、僕はそのことをメールで桜井さんにお伝えしました。

 ドクターマリオ
 drmario.wav(804KB)

桜井:
 そう、それを読んで「あ、それってスマブラDXとまったく一緒だ!」と思いました。
 いろいろな状況を呼ぶ、というあたりが。
 結果的に作られたゲームは全く違うんだけれども、「スマブラと本質的に同じ曲」という思いがかつて聞いたドクターマリオの曲の中にあり、それをうっすらと感じていて、そういう選曲になった、ということです。
 それはすごくいい相乗効果だったなあと、思ったことがあったんです。

酒井:
 僕がアレンジを担当していた田中さんの曲は、「ブリンスタ」と「ブリンスタ深部」、それとさっき言った、「ドクターマリオ」と「オネット」ですね。
 今回僕は、田中さんと近藤さんの曲をけっこう担当していて、お二人に対して個人的なリスペクトがあるから。
 ゲームそのものはあまりやってないんだけれども、原曲を制作した方を知っているというのは、すごく重要ですよね。

桜井:
 ほら、それはさっき言っていた「義理立て」ですよ。

酒井:
 ああ、そうかもしれない。

桜井:
 やっぱり、キャリアのある人たちですからねえ。
 その曲をどういう気持ちで作ったのかということは、考えますよね。

酒井:
 「ブリンスタ」の曲を作っているときに、その曲の間に「エレベーター前の音楽をいれるといい」っていう指示が桜井さんからきたんです。
 それで、田中さんに、「メトロイドのエレベーター前の音楽を弾いてください、録音しますから」って言ったら、田中さんが、「昨日も別の場所で、ちょうど同じことを言われたんよ。『エレベーター前の音楽がすごく好きなので弾いてください!』って、でも、ワシ、おぼえてない」って(笑)。

桜井:
 そういうものなのかなあ(笑)。

酒井:
 案外、原作を作った人って、そうかもしれないなあって思って。

池上:
 むしろ、桜井さんの場合はカービィに対してそういうことがあるのかもしれないですよね。
 カービィのゲームをやっている人の感覚から外れちゃってるという。

桜井:
 あるある。
 「メタナイトを出してほしかった!」とか「デデデ大王を出してほしかった」っていう意見もあるし。

池上:
 でも、自分の持ちキャラだと、逆にさじ加減がわからないですよね。
 「メタナイトなんて、出してもいいのかなあ」っていう感じになるんじゃないですか。

桜井:
 そうそう。
 今回のことで思った以上に人気があることはわかったけどね。

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