酒井:
 スマブラDXのオーケストラに話しを戻しますと、指揮者ですごく悩んだんです。
 他にも色々上手くいかないこともあって、2〜3週間くらい悩んだかなあ?
 それで、東京で録音をして、東京のオーケストラを使うのに、なんで名古屋から指揮者を呼ばなければならないのかということも、チラッと思ったりもしましたけれども、結果的には竹本泰蔵さん*を選んでよかったと、僕は今でも思っています。

桜井:
 いやあ、あの方もすごかったですねえ。

酒井:
 ゲームをよく知っていますしね。

桜井:
 バイタリティもあるし、ポジティブですよねえ。
 尊敬すべきですよねえ。

酒井:
 もう、「ゲームの仕事が嬉しい!!」って言ってましたもんね。
 その、「嬉しい!!」っていう気持ちを出してくれるところが、こちらとしても嬉しいですよね。

桜井:
 そうですよね。
 あ、読者の方のためにお話ししておくと、スマブラDXの全部の曲がオーケストラではなくて、限られた曲だけなので、どの曲がそうなのかをどこかに書いておくべきかなあ。

安藤:
 ユーザーの人は、どの曲が生楽器の音で、どの曲が打ち込みかを当てることってできますかねえ?

桜井:
 当てられない!それは当てられないよ。
 特に・・・

酒井:
 グリーングリーンズ!あれはオーケストラだと思うよね。
 あれは安藤さんの曲だよね。

桜井:
 結局、サウンドスタッフのこの4人がそれぞれオーケストラのスコアを書いたんですよね。

酒井:
 そう、4人で分担をして。
 桜井さんがゲーム誌のインタビューでも言ってくれていますけど、ひとつの会社の中にサウンドスタッフが5人いて、そのうち4人がスマブラDXの担当で、さらにその4人がオーケストラのスコアを書くっていうのは、僕はすごく画期的なことだと思うんですよ。

池上:
 いやあ、書いたっていうか、書かざるをえなかったというか・・・

酒井:
 でも、さっき池上さんのスコアを見たんですけど、ちゃんと書けていますよ。

池上:
 いや、それはでも、酒井さんのおかげですよ。

酒井:
 いや、ここでハッキリ申し上げておきますけど、僕は池上さんと安藤さんのスコアに一音符たりとも書き込んでいませんよ。

安藤:
 でも、酒井さんの助言がなかったら・・・

池上:
 本当に酒井さんが頼りって感じでしたから。

酒井:
 うーん、ちゃんと池上さんと安藤さんが書いたと思いますよ、僕は。

池上&安藤:
 まあ、書いたことは書いたんですけど(笑)。

酒井:
 「夢の泉」ステージの曲の対旋律は、池上さんならではの、すごくいい部分だと思いますし。

安藤:
 僕もあれは、とても池上さんっぽい曲だと思うよ。

池上:
 そうですか?でも、途中までは酒井さんの作った曲でしたから。

酒井:
 リズムのピアノ部分は僕が作ったものを利用してもらってますけれども、でもやっぱり、僕はああいう対旋律は作っていませんから。
 だから、ああやって発展させていったということは、池上さんの実力じゃないですか?

池上:
 でもむしろ、酒井さんが大変だったんじゃないかなあって、心配してましたけど。

桜井:
 いや、今回のオーケストラについては、大変じゃない人は一人もいなかったと思うけど。

酒井:
 あのオーケストラの収録の後、桜井さんは倒れたんですよね。

桜井:
 次の日に点滴を打ちました・・・。
 なぜそうなってしまったかを説明しないと、誤解を招くのでお話します。
 オープニングの映像を頭の中でグーッと想像しながら、オーケストラの演奏をスタジオで聞いていたんです。
 音と映像のタイミングを、「ここは合っている、ここは合っていない、ここは合っている、ここは合っていない」というようにリアルタイムかつワンチャンスで細かくチェックしながら聞くから、ものすごく集中力を使うんですよね。
 それによってこれからの絵づくりもしなければならないから*、音と映像が合っていないところはどうやったら調整できるか、演奏が流れ続けている一瞬一瞬で判断しなければならないので、すごく疲れたんです。
 まあ、すでに過労状態だったことは否めませんけれど。

酒井:
 あの録音も4時間でちゃんと終わったっていうのも、奇跡だと思いますよ。
 僕もああいったオーケストラのスタジオワークは初めてだったんですけれども、演奏が流れているなかで、OKの音とNGの音を瞬間的に判断して、NGの部分を収録しなおすなら、どのくらいの時間が必要なのかというところまで、全部見なくちゃいけないっていうのは、本当に大変なんですよね。

桜井:

 大変なんですよねえ。
 実は、オープニングの絵コンテは、安藤さんが最初に作った曲に合わせて描いていたので、今でもその頃の曲が頭の中に残っているんですよ。もう、全部口ずさめるくらい。

安藤:
 私も同じですよ。

桜井:
 映像と音を合わせる作業というのは、本当に集中してやるから、頭のなかに曲が焼き付いていて、なかなか離れない。

池上:
 それじゃあ、オープニングは相当数の曲が作られたんですね。

桜井:
 いや、安藤さんと酒井さんの2曲だけ。

池上:
 俺もオープニングを1曲作って聞いてもらったっていう記憶があるんだけど。

安藤:
 あ、あったね。参考曲みたいな感じで。

桜井:
 「オープニング的なもの」って言っていたよね。
 その頃は、オープニングがまだ完全に想定されていなくて、曲を聞きながら、「この辺でキャラクターが、こういうふうに出てきたらいいんじゃないですかねぇ」っていう感じの話しをしていた。

池上:
 ああ、それで僕は、「スキャットを入れて、ジャズのビッグバンドみたいに」って言っていたんですよね。

桜井:
 そう、そのときは自分が、「オープニングに歌とか、コーラス的なものを入れたい*、入れたい」って言っていたんだけど、それを聞くみんなの目は本気にとらえてくれてなさそうだった(笑)。

池上:
 最初はオーケストラの予定じゃなかったんですよね。
 コーラスというか、歌を入れるという感じだったのかな?

桜井:
 まあ、今までのような「絵と音があまり合っていない」というものじゃなくて、「絵と音がマッチしていて、どこに出しても説得力がある」っていうものを目指していたから、どちらも入り口は一緒だね。

酒井:
 これから言うことは自画自賛じゃないんだけれども・・・
 例えば僕は以前から、有名なゲーム業界外の作曲家が作ったゲームのオープニング曲を聞いても、「合ってないなあ」という印象を感じていたんですよ。
 有名な人だから忙しくて時間がないのか、ゲームに対しての入り込みが少ないのか、どちらかはわからないんですけれども。

桜井:
 どちらかというと私は後者だと思いますね。
 その作品に対しての突っ込みというか、踏み込みが足りないというか。
 まあ、その逆にスマブラの場合、ディレクターがこれだけ、あちこちに首をつっこむのは珍しいかも。*

池上:
 桜井さんの場合は「入り込み過ぎ」っていうハナシも・・・

桜井:
 スミマセンでした!(笑)

酒井:
 桜井さんだったら、相手がどんなに有名な人でも「直せ、直せ」って言うと思うけどね。(笑)

池上:
 僕が桜井さんの言うことややることに対して、いいなあって思うのは、今までやったことがないような仕事をやってしまうというところなんですよ。
 例えば、MA(マルチオーディオ)編集*にも行ったじゃないですか。
 当然、映画なら映画の人がMA編集を専門にやっているんだけど、桜井さんは「ゲームの曲を作ってるんだから、ゲームの人がMA編集をやっていいんだよ、できるんだよ」っていうことを言ってくれて、すごく心強かったんですよ。

桜井:
 オープニングを作る側としては、ドキドキしながらやっていたっていうところもあるんだけどね。
 すごーく高いお金を使って、しかも、やったことがないような仕事をしていたから。
 でも、新しいものを作るのだから、今までやったことがない仕事をするというのは当然なことなので。
 なぜかゲームを作るたびに機種を変えているし。*
 なんでなんだろう?まあいいや(笑)。

酒井:
 でもねえ、MA編集が終わったときに、桜井さんが「ああ、高いお金を使って遊ばせてもらった!」って言ってたんですよ。

池上:
 やっぱりそういうふうに仕事を楽しまないと、続けていられないですよね。

安藤:
 でも、ゲーム業界以外の演奏やMA編集を専門としている人たちの仕事を見ることで、得られるものもありますよね。
 その人の考え方とか気合いを感じることができるから。

池上:
 ゲームの仕事をしている人って、「なんとなく自信がない」っいうところがあるんじゃないんですかね。
 例えば、「ゲームは映画より下」って勝手に思っちゃってるところがあるような。
 そうじゃなくて、もっと前向きになるべきなんじゃないかと思うんですよ。「ゲームだからこのレベルでいいんだ」っていう時代じゃなくなっちゃったし。
 映画や歌や、それ以外のものと同列に競争しなくちゃならない時代になったんだろうなって。

酒井:
 以前僕が音効さんに仕事を頼もうと思ったら、「ゲームのほうが全然進んでるじゃないですか」って言われたことがありましたよ。
 このあいだもオーケストラのことで打ち合わせをしたときに、「今は映画とかテレビとかでは、オーケストラの仕事がないんですよ。むしろゲームのほうが多いですよ」って言ってたから、今はゲームが一番先に行っちゃってるんじゃないですかねえ。

安藤:
 まあ、どっちが先かというよりも・・・
 例えば、ミキサーのプロの仕事を見ると、確かにすごいんだけれど、その一方で「ゲームとは違うな」って思うところがあるんですよ。
 だから、CDを作るプロの人は、ある意味ではゲームで鳴らすのとは違う音を作っているんですよね。
 だからやっぱり、ゲームはゲームのプロが関わる余地があるわけですよね。

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